大判例

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水戸地方裁判所 平成6年(わ)692号 判決

本籍

水戸市下大野町二〇八四番地

住居

同市愛宕町六番一五号

会社役員

白戸與五郎

昭和一八年一月八日生

右の者に対する恐喝、所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官廣瀬勝重出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役五年及び罰金五〇〇〇万円に処する。

未決勾留日数中五五〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  牛木隆博(以下「牛木」という。)と共謀のうえ、自己の所有する鹿志村太一名義の六筆の土地の売買に関する裏金及び仲介料名下に、買主であるジャパン・プランニングハウス株式会社(以下「ジャパン・プランニングハウス」という。)の代表取締役石崎哲三(以下「石崎」という。)から金員を喝取しようと企て、平成三年二月二二日ころ、茨城県勝田市(現ひたちなか市)表町一二番二号所在のジャパンプランニングハウス勝田支社事務所(以下「勝田支社」という。)において、石崎に対し、「あの土地には、おれの建物が一筆残っているんだ。おれの建物がある以上、土地を押さえちゃうぞ。極道の事務所にしてもいいんだぞ。坪一万くらいしょうがなかっぺ」などと申し向けたうえ、同年三月八日ころ、同所において、石崎に対し、「裏金はいつ払うんだ。いつまで待ったら払うんだ。言うことを聞かないと、極道の事務所にしてしまうぞ。金を早く払え。」などと申し向け、さらに同月一五日ころ、同所において、石崎に対し、「金を出さなければ、土地を押さえちゃうぞ。あそこを極道の事務所にしてもいいんだぞ。そうすれば、お前らも手も出めぇ。」などと申し向けて金員を要求し、もしこの要求に応じないときは、ジャパン・プランニングハウスが右土地に計画していたマンション建設事業等を妨害する気勢を示して、石崎を畏怖させ、よって、同日同所において、同人から現金一八七八万円の交付を受けてこれを喝取し、次いで、同月二五日ころ、勝田支社において、石崎に対し、「朝倉に仲介料一五〇〇万円を支払え。言うことを聞かないと、極道の事務所を作って土地を押さえるぞ。」「面倒臭いことを言うと、極道の事務所を作ってあの土地を押さえちゃうぞ。お前のところなんか潰すのわけねぇ。」などと申し向けて金員を要求し、右同様の気勢を示して石崎を畏怖させ、よって、同日同所において、同人から現金三〇〇万円の交付を受けてこれを喝取した

第二  水戸市愛宕町六番一五号に居住し、平成三年中に土地を売却したことによる短期譲渡所得等を得ていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、土地の譲渡収入を除外するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、平成三年分の実際総所得金額が一四七八万七八六七円で、分離課税による短期譲渡所得金額が二億八六五六万四四八六円(別紙所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年三月一六日、同市北見町一番一七号所在の所轄水戸税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が一三九二万八一六二円で、これに対する所得税額が二五一万七七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億五九四八万八六〇〇円と右申告税額との差額一億五六九七万九〇〇円(別紙ほ脱税額計算書参照)を免れた

ものである。

(証拠の標目)

括弧内の番号は、証拠等関係カードの検察官請求証拠の番号を示す。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  第九ないし一一回公判調書中の被告人の供述部分

一  水戸地方法務局登記官作成の登記簿謄本六通(甲二九ないし三四)

一  押収してある不動産売買契約書一通(平成七年押第九〇号の6)

判示第一の事実について

一  被告人の検察官(乙一〇)及び司法警察員(乙二ないし四、七ないし九)に対する各供述調書

一  第二ないし第四回公判調書中の証人石崎哲三の供述部分

一  第五ないし第七回公判調書中の証人大谷敬三の供述部分

一  第七回公判調書中の証人鯉渕一世の供述部分

一  証人石崎哲三に対する当裁判所の尋問調書

一  石崎哲三(甲一)、大谷敬三(甲四)、鯉渕一世(甲五)、牛木隆博(甲六)及び朝倉光兵(甲七)の検察官に対する各供述調書

一  司法警察員作成の実況見分調書(甲三)

一  水戸地方法務局登記官作成の登記簿謄本(甲三八)

一  押収してある受領証一通(平成七年押第九〇号の10)、土地売買契約書(写)一通(同号の11)及び領収証一通(同号の16)

判示第二の事実につき

一  被告人の検察官に対する各供述調書(乙二一ないし二五)

一  被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書(乙一六ないし二〇)

一  大谷敬三(甲一〇三)、谷井力也(甲一〇四)、鹿志村太一(甲一〇五)、野中信敬(甲一〇六)、黒澤延夫(甲一〇七、一〇八)、小澤三郎(甲一〇九、一一〇)、打越正恭(甲一一二、ただし、不同意部分を除く。)、大和田敏行(甲一一四)、田尻満子(甲一一五)、小野充雄(甲一一六、一一七)及び堀口碩康(甲一一八、一一九)の検察官に対する各供述調書

一  礒崎幸子(甲一一一)及び打越正恭(甲一一三)作成の各答申書

一  大蔵事務官作成の土地譲渡収入調査書(甲九六)、土地原価調査書(甲九七)、立退料調査書(甲九八)、借入利息調査書(甲九九)、訴訟費用等調査書(甲一〇〇)、譲渡費用調査書(甲一〇一)及び不動産所得調査書(甲一〇二)

一  水戸税務署長作成の回答書抄本(甲一二〇)

(補足説明)

第一判示第一の事実について

一  弁護人は、被告人が平成三年三月一五日ころ、ジャパン・プランニングハウスの代表取締役であった石崎から現金一八七八万円の交付を受けた事実は認めるものの、これは、被告人がジャパン・プランニングハウスに譲渡した建物の代金であり、その際、被告人が脅迫文言を使ったような事実は一切存しないし、また、同月二五日ころ、被告人が石崎から交付を受けた三〇〇万円は、同日、被告人が勝田支社へ赴いた際、不動産業をしている朝倉が石崎との間で取り決めた仲介料であって、被告人はこれには全く関与しておらず、朝倉から右三〇〇万円の交付を受けた事実はないから、被告人は無罪である旨主張している。

しかし、石崎の検察官に対する供述調書、第二ないし第四回公判調書中の同人の供述部分、当裁判所の尋問調書(以下、これらをまとめて「石崎供述」と呼ぶことがある。)、大谷敬三の検察官に対する供述調書、第五ないし第七回公判調書中の同人の供述部分(以下、これらをまとめて「大谷供述」と呼ぶことがある。)を始め、証拠の標目中の判示第一の事実に関する証拠として掲記した関係各証拠を総合すれば、判示第一の事実は優に認めることができる。以下、補足して説明する。

二  石崎供述及び大谷供述の要旨

1 石崎供述の要旨

「私は、平成二年八月ころ、不動産業をしている大谷敬三(以下「大谷」という。)から、マンション建築にどうかということで、茨城県勝田市稲田字原野一一六九番の三、一一六九番の四、一一六六番一、一一六六番四、一一六八番四、一一六八番五の土地(以下、これらを「本件土地」という。)を紹介された。現地を確認したうえで、本件土地がマンション建設用地に向いていると思ったので、大谷に本件土地を購入する旨伝え、売主との交渉や国土法上の手続きを任せることにし、大谷との間で、その売買代金は、国土法上の許可が下りた坪当たりの金額に実測坪数を掛けた額にすることを決め、同年一一月上旬ころ、坪二九万円ということで国土法の許可が下りた。平成三年一月一〇日、関係者が関東銀行大洗支店に集まり、本件土地売買についての契約を交わした。被告人はこの場に来ていなかったが、大谷が被告人の代理人として出席し、手付金の五〇〇〇万円は、ジャパン・プランニングハウスが資金の融資を受けたシステムリースを介して、大谷が小切手で受け取り、これと引き換えに大谷が本件土地名義人である鹿志村名義の領収書を渡した。その売買契約書には、『最終残金取引のとき、確定測量地積による残金の決済と、引渡しをする。』旨の特約が付加され、また、私と大谷との間で、本件土地上の倉庫を代金一億円で売買する契約を結び、この契約には『売買成立後、契約物件は売主の責任において解体滅失登記をする。』旨の特約が付けられた。同年一月末ころ、本件土地の実測が終了し、面積が一八七八坪と判明したので、残金決済と本件土地の移転登記手続のための最終取引を同年二月四日に行うことになった。当日は、前記大洗支店に被告人を含め関係者が集まり、地積や代金を確認した後、土地残代金の支払いがなされた。また、そこには、被告人が金を借りていて、その担保として本件土地上に所有権移転仮登記を有する新明和工業株式会社の代表取締役小澤三郎(以下、「小澤」という。)も来ており、右の残代金のうち、二億九〇〇〇万円は、システムリースから小澤に小切手で渡され、これと引き換えに小澤から右仮登記の抹消に同意する書面が渡された。本件土地の権利証は被告人が持参してきたと思う。被告人と大谷及び小澤はその時点で帰ってしまった。その後、水戸の法務局で、本件土地の移転登記手続を行い、残りの土地代金二億四六二万円の小切手と建物代金一億円の小切手が、システムリースから大谷の委任を受けた水戸信用金庫の職員に手渡された。同年二月一三日ころ、被告人が大谷と一緒に勝田支社に来て、『土地の売買契約書の名義人が鹿志村になっているが、だれにするか決まっていないので、後で契約書を差し替えてほしい。倉庫の解体は、私の方でやりたい。』旨申し入れてきたので了承した。このとき、被告人は、被告人所有の建物が本件土地上にあるという話はしておらず、裏金の話もしなかった。その後、大谷から、被告人が坪一万円の裏金を要求していると言ってきたが、『契約は完了しているから、払えない。』と言って断った。同年二月一五日ころ、私が打越測量士のところに本件土地の実測図を取りに行くと、同人から、被告人は山口組関係の人間であると聞き、びっくりした。大谷から、再度電話で被告人が坪一万円の裏金を要求していると聞き、これを断ったが、その際、大谷は、被告人が暴力団関係者であることを認めた。同月一九日ころ、被告人から電話で、『大谷から裏金の話があったっぺ。坪一万円くらいしょうがなかっぺ』と言われ、取引が終了していることを理由に恐る恐る断ったが、被告人は、『二月二二日ころ行くから。』と言って、電話を切った。被告人は、同月二二日午後一時半過ぎころ、一人で勝田支社に現れ、暴力団のような横柄な態度で、『あの土地は、こうなんだ。よく読んでみろ。』と言って、茶封筒を机の上にほうり投げ、私が茶封筒の中の和解書を読んでいると、『あの土地には、おれの建物が一筆残っているんだ。おれの建物がある以上、土地を押さえちゃうぞ。極道の事務所にしてもいいんだぞ。坪三〇万円ということで、坪一万円くらいしょうがなかっぺ。』と威圧する口調で言って、一八七八万円を要求した。私は、恐る恐る、『契約も取引も終わっているし、大谷さんと話してください。』と言って、これを断った。このとき、建物を買い取るという話は全く出なかった。その後、私は、登記簿を取って確認したところ、本件土地上に『平成二年一一月九日変更一部取毀』の登記がされている倉庫(パチンコ店)が一筆あり、これは被告人が代表取締役をしている横須賀急送名義になっていた。私は、改めて現地を確認しに行ったが、初めて現地を見たときと外見上何らの変化もなく、大谷所有の倉庫以外の建物が建っているようには見えなかった。その後、私は、そのパチンコ店の登記簿を持って大谷のところに行くと、大谷は『和解の前に滅失を確認していたのに、してやられた。』と言っていた。私は、会社の従業員と善後策について話をしたが、結論が出なかった。被告人は、同年三月八日午後一時過ぎころ、牛木を伴って勝田支社に現れ、同人を『建成の朝倉だ。』と言って紹介した。被告人は、私に『裏金をいつ払うんだ。大谷では駄目だから、仲介は朝倉にやってもらう。解体料も払ってもらうからな。』と言った。私が、『大谷と一億円の契約をしたときに解体費用も含まれている。』と言うと、牛木が『今後はおれを通さなくちゃ駄目だ。仲介はおれがやる。おれを通さなければ、土地を押さえちゃうぞ。仲介料を出せ。』と言い、被告人も『いつまで待ったら金払うんだ。極道の事務所にしちゃうぞ。』と言って怒鳴った。私は、このままでは被告人に業務を妨害されて会社がつぶれてしまい、何をされるかもわからず、金を払うしかないと思ったが、被告人の要求に対して明確な返答はせず、後で、会社の従業員らと話し合い、金を払うしかないという結論になった。同月一三日ころ、被告人が電話で『金の準備はできたか。』『わかんねえのか。土地を押さえちゃうぞ。あそこに暴力団の事務所を作れば、おめえは手も出めぇ。』と言って裏金を要求してきたので、私が『一応お金は用意してあります。』と答えた。被告人は、同月一五日午後一時半ころ、一人で勝田支社に来て『裏金の一八七八万円、用意できたか。』と言い、私が黙っていると、さらに『言うことを聞かないと、極道の事務所にするぞ。おれが一声かければ、何千人でも集まるんだ。この前来た朝倉というのは、本当は牛木というこれなんだ。』と言って、ほおを切る仕草をして暴力団員であることをほのめかした。私は、被告人に逆らうと何をされるかわからず、被告人の言うことを聞くしかないと思い、本件土地代金の裏金として一八七八万円を現金で被告人に支払った。その際、私は、領収書をくれるように頼むと、被告人が嫌な顔をしたが、税務署には出さないからと言って、何とか領収証を書いてもらった。その際、被告人からパチンコ店を買い取れという話は出なかった。同月二三日ころ、被告人から電話で『同月二五日に売買契約書の差し替えに行く。』と言われた。被告人は、同月二五日午後一時過ぎころ、朝倉光兵(以下「朝倉」という。)を伴って現れ、売主を被告人、買主をジャパン・プランニングハウス、代金を前と同じ(二九万円×一八七八坪)とする平成三年一月一〇日付けの本件土地の売買契約書に署名するよう言われた。私は、本件土地上の全部の建物を解体滅失するという特約事項を付記してくれるように頼んだが、被告人は聞き入れてくれず、仕方なくその売買契約書に署名した。右契約書を作成後、被告人は、『仲介料一五〇〇万円と解体料一六六〇万円を支払え。仲介料は朝倉に支払え。』と要求した。私は、朝倉に仲介料を支払う理由がないと思い、『大谷さんに相談しないと駄目です。』と言うと、被告人は『大谷は勝手に売っちゃったんだから、関係ねえ。言うことをきかないと、土地を押さえちゃうぞ。極道の事務所にするぞ。和解で大谷は建物を手にして、おれは六〇〇〇万円を支払うことになったが、おれは払わねえ。大谷は銀行に八パーセントの金利を払わなきゃなんねえが、おれは五パーセントの違約金でいいんだ。大谷の方がうんと損するんだ。法律はおれらに味方してんだ。』と大声で怒鳴った。被告人の声が大きくなって、事務所のみんなが怖がったので、被告人と私が奥の応接室に入った。そこで、被告人が『仲介料一五〇〇万円と、解体料一六六〇万円を支払え。おめえのとこ、つぶすのはわけねえ。あそこを極道の事務所にしておけば、どうなるか分かっぺ。』と怒鳴り出したので、私は震えてしまい、『三〇〇万円なら払える。』と答え、その場で三〇〇万円を用意して被告人に手渡し、朝倉が三〇〇万円の領収書を作成した。さらに、被告人は、建物解体費用一六六〇万円と仲介手数料一二〇〇万円と書かれた支払約定書二通に署名するよう要求し、私は、書かないと何をされるかわからないと思い、これに記名押印した。この日、被告人は、同人所有のパチンコ店を買い取れということは全く言わなかった。その後、被告人は、すぐには建物の取り壊しにかからず、同年一〇月ころから取り壊し作業に入ったが、被告人所有のパチンコ店だけは取り壊さずに残し、同年一一月一日ころ、電話で『仲介料と解体料の残金を支払え。』と要求し、私が『やるならやってください。被害届けを出しますから。』と強気で断ると、右パチンコ店の周りに囲いをして、新たに倉庫を作り上げてしまった。」

2 大谷供述の要旨

「鹿志村と被告人との間で、本件土地の売買について訴訟となったことがあり、鹿志村から頼まれて、本件土地上の倉庫を私が競落したが、平成二年五月一五日に訴訟上の和解が成立し、被告人と横須賀急送が鹿志村に対して和解金四八五〇万円を支払い、本件土地を取得すること、被告人が私に対して代金六〇〇〇万円を支払い、右土地上の倉庫を取得することになった。しかし、被告人が約束の日まで右六〇〇〇万円を支払わなかったことから、私が被告人に『一番いい方法としては、土地を全部処分した方がいいんじゃないか。本件土地と一緒に建物を売却したらどうか。』と持ちかけると、被告人も『売れるものなら、売ろう。』と言い、私が倉庫と本件土地の売却先を見つけるということになった。平成二年八月ころ、ジャパン・プランニングハウスの石崎に対して、本件土地を売却する話を始め、本件土地が二二〇〇坪くらいの広さで、土地上には私の倉庫が建っており、この倉庫は解体のための諸費用を含め一億円くらいで売りたいという話をした。石崎もこの土地を買いたいということだったので、被告人に買い手が見つかったことを連絡すると、『まあいいだろう。』と言って了解した。同年九月ころ、石崎に意思確認のため、本件土地の買付証明書を作ってもらい、これは被告人にも見せた。その際、私は、被告人に対して、土地の価格は国土法上の価格で取引するので、役所の方に出してみなければわからないという話をし、被告人もなるべく高い方がいいというふうに言っていた。国土法上の届け出は、県側の意見も聞いて坪二九万円という金額にして、そのことを被告人に伝えたら、「安いな。」と言っていた。平成二年一一月九日付けで国土法上の不勧告通知が下りたので、土地代金は、坪二九万円に実測面積を掛けた金額ということに決まり、本件土地の実測は被告人が打越測量士に頼むことになった。同年一一月中旬か下旬ころ、被告人に実測の状況を聞いたところ、被告人が『坪二九万円は安い。他のパチンコ屋も買いたいと言っている。』と言い出したので、ジャパン・プランニングハウスが既に融資金を借り入れていることを説明して被告人をなだめたが、被告人の言い方からして何とか売買代金をつり上げようとしている感じだった。同年一二月上旬ころ、被告人が恐喝事件で警察に逮捕され連絡がとれなくなったので、弁護人を通じて被告人に本件土地の売却について意思確認をしてもらったところ、売却してもよいと言っていると聞かされ、また、被告人が保釈された翌日に直接被告人に会いに行き、本件土地をジャパン・プランニングハウスに売ることについて、その意思を念を押すようにして確認したところ、被告人は売却の話を進めてくれと言った。それで、私は、『平成三年一月五日か一〇日ころ契約します。』と言うと、被告人は『いいよ。』と言って同意し、契約を取り交わす際に手付金五〇〇〇万円をもらうことを決めた。そこで、私は、本件土地の実測ができていなかったので、測量士からおおよその面積を聞き、暫定的に一八五〇坪で契約書を作成し、実測面積が出たときに計算し直すことにして、石崎に対して、その旨の説明をすると共に、本件土地の所有者は運送会社の社長だが、名義人が鹿志村になっているので、契約上の売主は鹿志村名義とする旨の話もした。平成三年一月一〇日、関東銀行大洗支店で、私、石崎、石崎の会社の人、融資先の人、関東銀行の支店長が集まり、特約事項付きの本件土地の売買契約書を取り交わして、手付金五〇〇〇万円を小切手で受領し、残金取引日は同年二月五日ころと決まった。私は、その日のうちに手付金五〇〇〇万円の小切手を被告人に手渡し、被告人から、あて名をジャパン・プラニングハウスとする仮領収書を受け取った。私は、被告人に『残金決済を二月五日ころにやる予定だから、測量をそれまでにお願いします。』と言うと、被告人も『いや、すぐできるよ。』と言っていた。その際、被告人が本件土地上の前記仮登記を残金決済のときに抹消してくれるように頼むと、被告人は、『それは、うちの方で話をつけるから大丈夫だ。』などと言っていた。被告人から坪一万円くらいの裏金を要求されたことがあり、石崎に裏金を払う気があるかどうか尋ねると、石崎は『国土法で決まった値段だから、それは困る。』と言って断った。同年一月二四日、ホテルステノで、私、被告人、野中弁護士(鹿志村の代理人)、安井弁護士の四人が集まって話し合い、本件土地の権利証は、野中弁護士が預かっているので、それを安井弁護士に渡して、安井弁護士がこれを最終取引のときに持参し、そこで残金の決済を行うことを決めた。同年二月四日、関東銀行大洗支店に被告人を始め当事者、金融機関の関係者、新明和工業の小澤三郎らが集まった。安井弁護士が持ってくるはずの権利証は、被告人が持ってきていた。二億九〇〇〇万円の小切手がシステムリースから小澤に渡され、小澤は、本件土地上の前記仮登記を抹消するという委任状を被告人に手渡して帰った。その後、法務局で登記を移転してから土地の残代金を決済するということになり、被告人から小切手を現金化してくれと頼まれたので、後は水戸信用金庫の人に頼んで、私と被告人の二人は法務局に行かずに帰った。同月一二日、土地の残代金二億四六二万円の小切手を現金化して被告人の口座に送った。そのころ、被告人が本件土地上にある私の倉庫を解体させてくれと言ってきたので了解したが、その際、被告人から右土地上に被告人のパチンコ店が残っているという話は全然なかった。そして、私と被告人が二人で、ジャパン・プランニングハウスの事務所を訪れ、解体の件と契約書の売主を被告人に差し替える件を石崎に話し、その了解を得たが、その際、被告人は、裏金の話も被告人の建物があるという話もしていなかった。その後、被告人からまた裏金の要求があったので、その旨を一応石崎に伝えたが、同人はこれを断った。そのころ、石崎の方から被告人は山口組の人なんじゃないかと言われ、私も否定しなかった。同年二月二〇日過ぎころ、石崎が大変おどおどした様子で、被告人が本件土地上に自分の建物があると言ってきたと言って建物の登記簿を持ってきたので、そんなばかなはずがないと思い、目の前が真っ暗になり、被告人にはめられたんじゃないかと思った。その後、現地に行って建物を見てきたが、柱が全部つながっており、私の倉庫以外に被告人の建物があるようには見えなかった。」

三  石崎供述及び大谷供述の信用性

1 以上の石崎及び大谷の各供述は、その内容をみると、いずれも取引に至る経緯、本件土地の取引状況などについて詳細かつ具体的に述べたもので、その内容に格別不自然、不合理な点は認められない。また、右各供述は、大筋において一致し、相互に補強し合う内容となっており、特に関東銀行大洗支店において、被告人のほか金融機関の関係者等多数が出席して、本件土地の残金決済がなされた際の状況についての供述内容は、よく合致しているのであって、右各供述の全体としての信用性には疑問をいれる余地がないというべきである。

2 また、石崎及び大谷が本件土地取引に関与するに至った経緯に徴しても不自然な点は存しない。

(一) まず、大谷がこれに関与するに至った事情についてみると、関係各証拠によれば、次の事実が認められる。すなわち、本件土地を所有していた鹿志村は、株式会社大黒食品に本件土地を貸していたところ、昭和六二年ころ右大黒食品が倒産し、本件土地の明渡しを希望したが、同土地上に無断で立てられたパチンコ店に暴力団が介入していたため、その対処を大谷に相談した。そこで大谷は、暴力団に通じている被告人にその処理を依頼することになり、被告人から「暴力団との交渉はおれがやる。更地にして売ればもうかるから、立退料、建物取壊料などとして一五〇〇万円を出してくれ。」などと言われ、大谷は右金額を被告人に渡した。その後、被告人と鹿志村との間で、本件土地売買をめぐって争いとなり、鹿志村が被告人から脅されて右土地を一億円という安い値段で被告人が代表取締役をつとめる横須賀急送に買い取られたとして、鹿志村から民事訴訟が提起されるなどし、鹿志村から依頼された大谷が同土地上にある右大黒食品所有の倉庫を競落するなどするうち、平成二年五月に関係当事者間で和解が成立した。その内容は、被告人が鹿志村に対して、和解金を支払って本件土地を取得し、大谷に対しては、平成二年六月末日までに六〇〇〇万円を支払い、右倉庫を被告人の経営する横須賀急送に売り渡すというものであった。その後、被告人が右期日までに六〇〇〇万円を支払わなかったため、大谷と被告人が話し合い、本件土地と一緒に倉庫を売却することになって、大谷が被告人の委任を受け、石崎を相手方として本件土地をジャパン・プランニングハウスに売却する契約を締結した。

以上のように、大谷が本件土地の売却に関与することになったことについて格別不自然な点は存しない。

(二) 次に、石崎が本件土地を買い受けるに至った経緯をみると、関係各証拠によれば、石崎は、大谷が勝田市周辺の宅建業界で会長に就いていた人物であり、誠実、実直、取引も堅実で不動産関係全般にわたり知識も豊富であることから、以前から信頼を寄せていたところ、同人からマンション建設に適当な土地があると聞き、現地を見たうえ、立地条件からマンション建設に適当な土地であると考え、平成二年九月ころこれを購入することにし、そのころ取引先の朝日住建に右の共同開発の話を持ちかけ、同年一〇月一五日には、朝日住建との間で共同開発に関する協定を結び、また、同月上旬ころには、取引銀行である関東銀行大洗支店から紹介されたシステムリース株式会社(以下、「システムリース」という。)への融資申込みをし、同年一一月二九日、八億円の融資契約が結ばれ、このような経緯を経て、平成三年一月一〇日、本件土地の売買契約が締結されるに至ったことが認められる。そして、右のような経過に徴すると、石崎において、大谷を売主の代理人として本件土地取引に及んだ点に何ら不自然な点は存しない。

3 一方、被告人は山口組小西一家堀政連合の相談役の肩書を記した名刺を持ち歩き(甲八三)、また、神奈川県内の堀政連合の事務所には、最高顧問の名札の前に名誉顧問として被告人を意味する「横須賀一郎」の名札が掲げられており(甲七一)、さらに同連合若頭補佐である牛木と行動を共にするなど、被告人が暴力団組織である堀政連合と極めて密接な関係を有していることは明らかである。そして、大谷は、被告人が暴力団と関係を有することは取引の当初から知っており、また、石崎は、平成三年二月四日以降には被告人が暴力団関係者であることを認識するに至っている。とりわけ、石崎は、平成四年一月ころ、本件土地を見に行った際、同人の車に被告人の車がぶつかってきたり、敷地内を追い回されたりしたことがあり、また、被告人が代表をつとめる横須賀急送を原告、ジャパン・プランニングハウスを被告とする本件に関連した民事裁判において、裁判所の廊下で被告人と出くわした際、被告人にナイフで刺すような仕草をされ、その後ストレスがたまって入院するまでになり、また、被告人の報復を恐れて妻と離婚手続きを取って住居を別にしながら、時折通い合う生活を送るなどしているのであり、大谷も被告人から街宣車などによる嫌がらせを受けたことを認めているのである。そして、以上のような石崎及び大谷が、あえて被告人を無実の罪に陥れるという危険を冒してまで、捜査段階での取調べや公判廷での証言を通じて、一貫して虚構の事実を供述するなどということは到底考え難いところである。そして、大谷供述は、細かな点で捜査段階、公判廷での主尋問、反対尋問と移るに従い供述に変遷を見せているものの、本件土地取引の状況、特に被告人が本件土地の売主として関与していたという重要な根幹部分については一貫しており、また、石崎は、捜査段階、公判廷を通じて被告人から脅迫された状況について、明確かつ断定的な供述をしているのであり、公判廷での両名の供述は、被告人を面前にしながら、しかも弁護人らによる極めて詳細な反対尋問にも崩れることなく、右の供述を維持しているのであって、この点でも両名の供述の信用性は高いというべきである。

この点につき、弁護人らは、石崎が被告人を刑事告訴したのは、マンション建設計画に失敗した責任をすべて被告人に転嫁し、この失敗によって生じた負債を被告人から回収せんとする意図に出たものであって、石崎供述は全く出たらめであり、また、大谷は、本件土地上の倉庫の売却をするには、本件土地を売却する必要があることから、被告人に無断で本件土地の売買契約を進めたことを隠ぺいするため、石崎と共に連絡を蜜にして虚偽の証言をして被告人を罪に陥れようとする意図のもとに、前記供述に及んでいるものであるから、いずれの供述も信用できない旨主張している。

しかし、関係各証拠によれば、石崎は、本件土地の購入資金を借り入れるため、売買契約前の平成二年一一月二九日にシステムリースとの間で八億円の借り入れをしたことが認められるが、右時期までには、本件土地の売買金額について国土法上の許可が下り、おおよその土地代金額が判明し、当事者の間で売買契約を締結することが確実視されていたのであるから、右時期に資金の借り入れをすること自体に格別不自然な点はない。また、石崎は、本件土地を購入して、マンションを建築することを予定していたものの、被告人が解体を約束した建物を解体せず、石崎において、いったんは右建物の解体に成功したものの、被告人が再び新たな倉庫を建築するなどし、その後も長期にわたってマンションの建設事業を妨害したため、右借金の利息がかさむなどして建設計画が進まなくなったもので、いわゆるバブル経済がはじけたという経済情勢の変化だけで右建設計画がとん挫したものとは認められない。さらにまた、石崎は、大谷を介して既に本件土地の売買契約を成立させ、売買代金も全額支払っている以上、マンション計画が失敗したとしても、それを被告人に押しつける理由はなく、また、本件土地上に権利もなく建っているパチンコ店の残存部分を高額で購入しなければならない理由も必要もないのであって、石崎において、本件土地上に予定していたマンション建築計画が失敗した責任を被告人に転嫁し、被告人から右失敗による負債の回収を企てたなどとは到底考えられない。また、前記のとおり、大谷は、勝田市周辺の宅建業界で会長に就いていた人物で、誠実、実直な人柄であることは石崎が認めるところであり、しかも被告人の素性を良く知っているのであるから、弁護人らが主張するような動機から、あえて危険を冒してまで無実の被告人を罪に陥れるような行動に出るなどとは到底考えられない。

4 石崎及び大谷の各供述は、本件土地についてのジャパン・プランニングハウス代表取締役石崎哲三作成の買付証明書(平成七年押第九〇号の1)、茨城県知事作成の国土利用計画法二七条の四第一項の規定に基づく勧告をしない旨の通知書(同号の2)、前記石崎とシステムリースとの金銭消費貸借契約書など三点(同号の3ないし5)、鹿志村太一を売主、石崎を買主、仲介人を大谷とする不動産売買契約書(同号の6)、打越正恭が平成三年一月三〇日に作成した地積測量図(同号の9)等の証拠物により裏付けられている。

もっとも、右売買契約書には、収入印紙が貼付されていないし、売主の名義も鹿志村太一となっているが、右契約が締結された平成三年一月一〇日当時は、本件土地の登記簿上の名義人が鹿志村となっており、また、右の当時は本件土地が測量中であり、その実測面積が判明していなかったため、概算で売買金額を算出せざるをえない状況であったことが認められる。そして、このような状況から、売買契約書上の売主を鹿志村とし、収入印紙を貼付しない売買契約書を作成したものと認められ、このような売買契約書に収入印紙を貼付しない例があることは、商慣習上も珍しいことでもないのであって、これらの点が契約の効力に影響を与えるものではないことはいうまでもない。

5 石崎及び大谷の各供述は、さらに、関係者の供述によっても明確に裏付けられている。

(一) まず、小澤は、検察官に対する供述調書において、「被告人に対し、本件土地上に存した物件の買取代金等として、数回にわたって融資し、その担保として本件土地につき所有権移転の仮登記を付した。この資金には、自宅を担保に勝田信用金庫から融資を受けたものを充てた。平成二年五月以降、被告人に対して、右貸金の元利合計三億五〇〇〇万円くらいの返済を要求したが、被告人は、『まだ、土地が売れていない。』と言い、被告人が本件土地上のパチンコ店を壊したので、本件土地が売れたのかと思って要求してもその返済の猶予を乞い、その後、勝田信用金庫から自宅を競売にかけると言われたため、被告人に強く返済を求めたら、「まだ売れていない。今話を進めているから、ちょっと待ってくれ。」と言うばかりだった。被告人に自宅の競売通知がきたのでもう待てないと言って、なおも三億五〇〇〇万円の返済を要求すると、被告人が私の家にやってきて、書面のコピーを見せながら、『土地が一八七八坪あって、坪三〇万円で売れるので、合計五億六三四〇万円になる。その中から、小澤さんに三億円払い、大谷に六三〇〇万円払う。鹿志村には四五〇〇万円払った。差し引くと、おれの取り分は結局四八四〇万円しかない。』などと説明した。そして、平成三年二月四日に関東銀行大洗支店長から、本件土地に付けた仮登記を抹消するため、書類を持って同支店にくるようにとの連絡があり、その日の二、三日前にも被告人からも同様のことを言われた。そして、同月四日、右支店に赴き、そこで二億九〇〇〇万円の小切手を受け取り、代わりに仮登記関係の書類を渡して帰った。」旨供述している(この点は、被告人が作成したメモ紙(甲七三)によっても裏付けられており、小澤供述の信用性には疑問の余地はない。)。以上の小澤供述は、被告人が小澤から借金返済を強く迫られ、被告人が平成三年二月四日以前に既に本件土地を売却する交渉をしていたこと、小澤に対しては、本件土地を坪三〇万円で売却できるとの説明をして借金返済の猶予を乞うていたことを示すものである。そして、その時期も前記石崎及び大谷が供述する本件土地取引のそれに符節を合わせているものと認められ、とりわけ、被告人が本件土地取引に関する最終的な決済のために平成三年二月四日に関東銀行大洗支店に集まった際、小澤も被告人らからの連絡を受けて、同所に赴いている経緯等に徴すれば、被告人が本件土地売買の仲介を大谷に依頼していたことを明確に裏付けるものというべきである。この点は、被告人の弁解の信用性を否定する事情であると共に、石崎及び大谷の各供述の信用性を有力に裏付ける事情であるといわなければならない。

(二) 次に、ジャパン・プランニングハウスの社員である鯉渕一世(以下「鯉渕」という。)は、本件土地取引経過及び本件犯行状況に関して、「平成三年二月四日、関東銀行大洗支店における残金決済の際、被告人がその場に同席して話を聞いており、最終代金の決済を法務局で行うと聞いても何ら文句を言っていなかった。同月一三日、被告人が大谷と共に勝田支社を訪れ、同年四月までに土地上にある倉庫を解体するという話をしていたが、その雰囲気は穏やかだった。その後、石崎と共に打越測量士の所に行って実測図をもらった際、被告人が山口組関係の者であることを聞き、石崎共々びっくりした。被告人は、同月二二日にも勝田支社にやってきて、不動産登記簿謄本などを示して『これをよく見てみろ。』と言って、本件土地上に被告人の建物が一筆残っていることを話して、本件土地売買代金のほかに、裏金を要求してきた。同年三月八日、被告人は、牛木を伴って勝田支社に来て、牛木を朝倉として紹介し、『裏金の一八七八万はいつ払うんだ。』と裏金を要求し、払わなければ、極道の事務所を作るなどとすごんだ。また、被告人は、『仲介はこの朝倉にやってもらう。』とも言い、牛木も『おれを通さないと駄目だ。言うことを聞かないと土地を押さえちゃうぞ。』などと言った。さらに、被告人は、『建物の解体料も払ってもらうぞ。』と言って裏金とは別の金も要求してきた。同月一五日ころ、被告人がやってきて、石崎が被告人に現金一八七八万円を払った。その際、被告人は、前回同様に何度も極道の事務所にするということを言い、また、『金を払え、裏金として一八七八万円くらいはこれくらいしょうがあんめぇ。』、『おれが一声掛ければ、極道が何千人も集まるんだ。この前来た朝倉というのは、実は牛木というこれなんだ。わかっぺ。』などと言った。」(検察官に対する供述調書及び第七回公判調書中の供述部分)旨明確に供述している。鯉渕供述は、その内容自体に不自然、不合理な点はなく、また、供述内容から窺われる供述態度に徴してもその供述の信用性には疑問の余地がない。そして、鯉渕供述は、本件土地取引の経過に関する石崎及び大谷の各供述、本件犯行状況に関する石崎供述をそれぞれ裏付けている。

(三) 牛木隆博は、検察官に対する供述調書において、次のとおり供述する。すなわち、「私が被告人の経営する横須賀急送に顔を出すと、被告人が私をよく債権取立に連れていった。暴力団である私が隣に座って相手をにらみつけ、怒鳴りつけたり脅かしたりして相手に金を出させる手伝いをさせるためだった。そのような手伝いの一つとして、平成三年三月八日ころ、被告人と共に勝田支社に行き、石崎と面談した。そのとき私は朝倉というような人間として紹介された。被告人が土地の金を払えと言っていたような記憶があり、石崎が渋っていると、被告人が大きな声を出して、女性の事務員が驚いて給湯室のようなところへ逃げ込み、それに気づいた私が同女を怒鳴りつけた記憶がある。被告人は、相手を脅かすとき、よく土地の上に極道の事務所を作るぞという内容の言葉を使うので、このときもそのような言葉を使っていたようにも思う。私は、相手を威圧する手伝いにかり出されたので、ただ座っているだけでは後で被告人に何と言われるかわからないと思い、被告人に加勢する言葉を石崎に言ったりした。」などと供述している。右供述は、不自然なところはないばかりか、牛木は、当時前記堀政連合若頭補佐の地位にあったものであり、被告人も前記のとおり同連合と密接な関係を有していたものであって、右のような牛木と被告人の立場や両名の関係に徴すれば、およそ牛木が真実に反して被告人に不利になるような供述をすることは考えられず、その信用性に疑いの余地はない(これに対し、牛木の公判廷での供述は、その供述内容から窺われる証言態度や供述内容に照らして到底信用できない。)。そして、牛木供述は、被告人の本件犯行状況の一部について、石崎供述を裏付けている。

(四) 朝倉光兵は、検察官に対する供述調書において、「平成三年三月二五日ころ、被告人と共に勝田支社に赴いて、売主を被告人、買主をジャパン・プランニングハウスとする本件土地の売買契約書を作成した際、仲介料の話になった。被告人は、石崎に仲介料として一五〇〇万円を要求し、同人がこれを出し渋っていると、語気を荒げて威圧するような言い方をしており、はっきり記憶していないが、土地の上に建物があり、それをどうにかするといった内容のことを言っていた。また、被告人が石崎と奥の部屋に入ったとき、『ふざけんじゃねえ。』と怒鳴っていたのが聞こえた。被告人に命じられて、仲介手数料一五〇〇万円の内金として三〇〇万円の領収証を作成し、石崎に渡した。三〇〇万円は同人から被告人に直接渡っており、私は受け取っていない。帰ってから被告人から九〇万円を報酬としてもらった。」旨供述している(もっとも、朝倉は、公判廷において、これらの点について、曖昧な内容に供述を変遷させているが、右公判供述が信用し難いことは明らかである。)。そして、朝倉供述は、被告人の弁解と矛盾するばかりでなく、石崎供述の一部を裏付けている。

(五) さらに、弁護人申請証人の打越正恭も、大筋では被告人の主張にそう供述をしながらも、「私は、石崎から、被告人に脅かされているという話を聞いたことがある。石崎から、平成三年暮れにその話を聞いたが、それ以前にもその話を聞いた。」旨供述している。その内容自体は伝聞ではあるものの、この点も石崎供述の信用性を裏付けるものというべきである。

6 これに対し、弁護人らは、石崎及び大谷は、パチンコ店の解体された時期についての供述が種々変遷しているうえ、解体後のパチンコ店の残存部分と倉庫とは区別がつかなかった旨供述しているが、本件土地の測量、パチンコ店の変更登記等の依頼を受けた打越は、パチンコ店の解体の時期について、平成二年一〇月下旬ころと供述し、パチンコ店残存部分と倉庫とは明確に区別できた旨供述しており、同人が客観的な第三者であることから、その供述の信用性が高く認められるので、同人の供述と齟齬する大谷及び石崎の右各供述は信用できないと主張している。

確かに、大谷及び石崎の各供述は、パチンコ店の解体時期に関し捜査段階と公判廷との間で変遷があることは否定できない。しかし、大谷及び石崎の各供述調書が作成されたのは、本件犯行から四年近く経過した後であり、公判廷における供述は本件犯行から五年近く経過した後であって、大谷及び石崎の各供述は、いずれもその間の時間の経過に伴う記憶の衰退があるうえ、本件土地取引では、その対象はあくまで本件土地であり、同土地上にある建物は解体することを前提として交渉が進められており、石崎や大谷らは必ずしも建物の形態や構造などに関心を有していなかったと認められる。また、パチンコ店と倉庫とは外形上もつながっており、共通の柱を使用していたというのであるから、別個の独立した建物が存在していた場合とでは事情が異なるのであり、しかも、石崎においては、はじめからパチンコ店の存在すら意識しておらず、大谷においては、同パチンコ店が和解調書にも出てこないような物件であり、大谷がこのようなパチンコ店の存在について細かな注意を払わなかったとしても不自然とまではいえない。このことは、「平成二年一〇月中旬ころ、石崎と共に現地を訪れたが、一級建築士の資格を有する自分が見ても大谷所有の建物以外に独立した建物があるとは見えなかった。」との鯉渕供述に徴しても肯けるところである。そして、以上のとおり、石崎及び大谷がそれぞれパチンコ店に関する記憶が曖昧であるとしても、その点が右各供述の全体の信用性に影響を与えるものとは考えられない。

これに対して、打越は、第一一回公判調書中の供述部分及び当公判廷における供述において、「平成二年九月一七日に磯崎建設からパチンコ店の床面積の変更を依頼され、同月一九日に現地を見に行くと、パチンコ店は取り壊されている最中だった。被告人に床面積の変更では収まらず、建物の種類の変更をしなければならないという話をした。パチンコ店を壊した後も倉庫とパチンコ店とは明快に区別できた。同年一二月四日に新聞で被告人が逮捕された記事を読み、被告人が暴力団関係者であることを知り、そのころ石崎に知らせた。その際、本件土地上には、被告人所有のパチンコ店が残っている話もした。」旨供述している。しかし、同人がパチンコ店の残存部分と倉庫とが明確に区別できたと供述する根拠が曖昧であるうえ、同証人は、被告人から直接本件土地の測量等の依頼を受けている関係にもあり、しかも、被告人が暴力団関係者であることを知っていたのであるから、同証人の右供述の信用性の評価にはなお慎重な配慮を要するというべきであり、石崎供述や大谷供述と対比し、右打越供述が石崎及び大谷の各供述の信用性を否定するものとは認められない。

以上の事情に徴すれば、石崎供述及び大谷供述の信用性については、疑問の余地がないというべきである。

四  被告人の供述とその検討

1 被告人の供述の要旨

「私は、大谷や鹿志村らとの間でなされた和解において、私が大谷に六〇〇〇万円を支払うとの条項に基づき、大谷に同金額を支払おうとしたら、大谷は、本件土地を売るときに、仲介させてもらえばよいと言ってこれを受け取ろうとはしなかった。しかし、このとき、本件土地の仲介などを依頼したことはない。恐喝未遂で逮捕、勾留中の平成二年一二月三日から二四日までの間に、安井弁護士を通じて、一回だったか、売らせてくれという話を大谷がしてきたことがあったが、安井弁護士を通じて断った。その後、大谷から電話があり、最低六億円の値段は確保するから、本件土地を売ってくれと言われ、私は、考えてみると答えたものの、売買に同意はしていない。平成三年一月一一日、大谷から五〇〇〇万円の小切手を預かった。本件土地が大手の業者に売れるので、その申込金ないし手付金ということで持ってきた。その日、突然持ってきたので、最初は預かることを拒否したが、話の中で大谷が『金額も六億だということで、ちゃんとするから。』と言うので、それまで預かるということになった。預かるのを渋った理由は、どこのだれが幾らで買うのか、結局今後どういう風な形で取引が移行するのか、その辺が全く分からなかったからと思う。大谷は、おれも勝田の大谷だから、任せろよと言った。そして、同月一三日、大谷が私の家に七億円の買付証明と、七億円余の預かり証みたいなものを持ってきた。買付証明書を見て、七億円で売れるんだなと考えた。買主も分かったが、だれが買主かは余り重要視していなかった。六億円より多い金額になっていることについて大谷に聞くと、大谷は、おれも努力しているから、仲介料等含めておれに一億円をくれよといった。この段階で、大谷もちゃんとやると言うので、本件土地を六億円で売却することの仲介を大谷に依頼した。同年二月初めころ、大谷から電話で本件土地上の小澤の仮登記を抹消するから、同月四日に関東銀行大洗支店まで書類を持ってくるように言われ、小澤にも自分がその旨連絡をした。当日、小澤と一緒に関東銀行大洗支店に行ったが、大谷から担保を抜くだけだから口出ししないでくれと言われた。同年二月一二日、大谷から本件建物代金二億四〇〇万円余が取引銀行に振り込まれたが、約束の六億円には五五〇〇万円くらい足りなかったので、そのことを言うと、大谷は、土地が若干減ってしまい、その金額になった、申し訳ないと言うだけで、らちがあかなかった。そこで、大谷と話をしてもどうしようもないから、ジャパン・プランニングハウスの石崎と話をすることにした。このとき、石崎に対して、自分が本件土地の本当の所有者であると話した。同月二二日、永井という昔暴力団だった私のところの運転手を連れてジャパン・プランニングハウスの事務所に行って石崎と会った。このとき、私は、石崎に本件土地に関する和解調書を見せ、石崎も本件土地の売買契約書、五〇〇〇万円の領収書、大谷とジャパン・プランニングハウスの建物一億円の契約書、国土法の許可証みたいなものなどを見せて、契約は全部完了していると言った。私は、こんな馬鹿な話はない、私が所有しているのだから、鹿志村がこういう売買契約書を結ぶはずはないし、結んだら二重売買だと言ったら、石崎は契約は終わったの一点張りだった。それで、私は、そういうことなら、本件土地上におれの建物が一棟あるから事務所にして、下を押さえちゃうぞ、仮差押えをかけて押さえちゃうぞ、と強く言った。少しエキサイトして、怒鳴ったことはあるが、極道の事務所にしてしまうとか、土地も差し押さえるぞとかは言っていない。結局、後日、大谷とよく話を詰めて話をしておくから、後日また会いましょうといって別れた。その後、同年三月八日、石崎から、『大谷と話をしたがらちがあかないので、白戸さんとこの前約束したような形の話をしたい。』ということで連絡があった。この日は、牛木という暴力団員を運転手として連れて、ジャパン・プランニングハウスの事務所に行った。ここで、石崎から、本件土地代金は、坪二九万円ということで取引は終了しているから、それ以上は支払えないと言われ、私は、本件土地代金自体は右の金額で納得したが、その際、それ以外に、本件土地上に残っている私の建物を三八七八万円でジャパン・プランニングハウスが買うということで石崎との間で話がついた。ただ、石崎から、右建物は二〇〇〇万円くらいしか価値がないから、その金額で買うが、残りは裏金にしてくれと言われ、石崎と裏金の交渉をして、結局本件土地につき、坪一万円ということで計算した金額一八七八万円をジャパン・プランニングハウスが建物代金の裏金として支払うことになり、そのうちの二〇〇〇万円は建物を壊した時点で、残りは近いうちに現金で支払うという約束になった。そして、同月一五日、金を用意するからきてくれというので石崎のところに行って、一八七八万円をもらい、その後、契約書なども大谷では駄目だから、新しく仲介人を入れて、トラブルのないようにやろうという話をした。この金は、裏金で内部処理するからという話が三月八日のときに出ていた。同月二五日は、不動産業者の朝倉、私、運転手の永井の三人でジャパン・プランニングハウスの事務所に行った。ここで、売買契約書を書き直して、その際、仲介人を大谷から朝倉光兵に変えたので、仲介料として、朝倉が一五〇〇万円を要求し、その一部として朝倉が三〇〇万円を受け取った。」

被告人の右供述は、要するに、本件土地取引の仲介を頼みもしないのに、大谷が勝手にジャパン・プランニングハウスの石崎と交渉を開始し、中途で、六億円で売買契約が成立するということで大谷が右仲介をすることを承諾したものの、大谷が六億円に満たない金額しか売買代金として渡さなかったため、話が違うとして、大谷を排除したうえ、本件土地につき、被告人自らが改めて石崎と交渉をし、売買代金については、契約書上は国土利用計画法上の届け出価額である坪二九万円として計算し、被告人が右土地上に所有する建物の代金及びその裏金として三八七八万円をジャパン・プランニングハウスが被告人に支払うことで合意し、その履行として一八七八万円の交付を受けたものであり、また、その後、他の不動産仲介業者を同道して、売買契約書を平成三年一月一〇日付けで作成し、その際の仲介手数料として、朝倉が三〇〇万円を受け取ったものであり、これは自分はもらっていない(もっとも、この点については、後記のとおり公判廷で供述を変遷させている。)というもののようである。

2 しかし、被告人の右弁解は到底信用することができない。

(一) 被告人の供述内容は、その内容自体に不自然かつ不合理な内容を含んでいる。すなわち、被告人が大谷から見せてもらったという大谷あてのジャパン・プランニングハウス作成の総額七億円の買付証明書は、平成二年九月一三日付けのものであって、四か月も前に作成されたものであり、この時期に見せてもらったということ自体不自然であるばかりか、右証明書は、買主の購入の意思を示したものにすぎず、当事者を拘束する何らの効力もないことは明らかであり、このような買付証明書を根拠に売買代金が六億円であると思うことも不自然である。また、被告人の弁解によれば、土地の面積に関係なく代金額を決定することになるが、土地取引の実情に徴してこのようなことは不自然であるし、被告人は、大谷から手付金として五〇〇〇万円の小切手を渡され、これに対して被告人は、平成三年一月一〇日付けで「土地代金手付金として(稲田)」と記載され、被告人の署名・押印のある領収書を作成して交付しているのであるが、被告人がその当時本件土地売買に同意していなかったのであれば、被告人において大谷にその趣旨を厳しく追及するのが当然と考えられるのに、被告人は、特段そのような態度をとることなく、土地代金の手付金の趣旨で右金員を受領する趣旨の領収書まで作成しているのであり、被告人の弁解を前提とすれば、そのような対応も不自然というほかない。さらに、被告人は、小澤と共に関東銀行大洗支店に赴いて本件土地上にあった前記仮登記の抹消のための手続をとることになった事実は認めながら、この時点では、本件土地売買の契約書は作成されていないと思っていたなどと、本件土地に関する売買契約が成立していることを認識していなかったかのような供述をしているが、そもそも右仮登記の原因が被告人の小澤からの借金にあるのであり、その精算がなされなければ右仮登記の抹消などということはあり得ないことや被告人の小澤からの借金の返済が本件土地の売買代金の一部からなされることは当然に被告人が熟知していたものと考えられるのであるから、被告人が右の時点で本件土地の売買契約が締結された事実やその売買代金の総額、右代金額から小澤への返済に充てられる金額の割り振りといった事実を認識していなかったとは考えられないところであり、被告人のこの点の弁解も不合理というほかない。

(二) 次に被告人の供述内容には、不自然、不合理な変遷がみられる。すなわち、被告人は、検察官に対する供述調書(平成六年一二月四日付け)において、「平成三年一月二四日にホテルステノで、被告人、大谷、野中弁護士、安井弁護士と会い、本件土地代金について、坪二九万円、実測した地積で計算することの確認をしていないか。」との問に対し、「いいえ。私も、安井弁護士もこの日に、ステノには行っていない。」旨答えておきながら、公判廷においては、右四名で右ホテルに集まり会合を持った事実を認め、ただ、右のような内容の話は出なかった旨供述している。右の会合は、後記のとおりかなり重要な内容を持つものであるところ、被告人は、会合に出席したこと自体を否定することができなくなり、右のような供述に変遷させたものと考えられ、このことは、被告人の供述の信用性に疑問を抱かせるものである。また、朝倉を伴って売買契約書を作成した際、一五〇〇万円の仲介手数料の話をしたくだりにつき、右検察官に対する供述調書においては、「仲介料については、朝倉と石崎とが話し合って一五〇〇万円と決めていた。そのとき石崎は、私に『金がないからもっと負けてくれるように朝倉に話してくれ。』などと言ったので、私は、『それは自分で話してくれ。』と言った。石崎は、一五〇〇万円の内金として朝倉に三〇〇万円を払い、朝倉がその領収書を書いていた。三〇〇万円は確かに私の目の前で朝倉が受け取っていた。。」旨、被告人はこれに口出ししたことがないかのような供述をしながら、公判廷においては、「仲介料の話は私が口火を切ったが、石崎は仲介手数料は払えないと言った。しかし、私が解体費用として一六六〇万円を負担することになって、本件土地代金の六億円には満たなくなるので、このことを石崎に話した。すったもんだした末、仲介料ということで、その分を穴埋めするという話になり、石崎もすぐに分かってくれた。今すぐ払えないので、取りあえず、三〇〇万円、残り一二〇〇万円という分割払いで払うということになった。石崎が手数料を払えないと言ったとき、『それでは手取りになんめえ。』などといくらか声を荒立てたと思う。」などと、被告人が代金が六億円に満たないことに対する穴埋めとして一五〇〇万円を要求した旨供述を変遷させている。そして、被告人は、右のような重要な事実に関する供述を変遷させておきながら、その点について何ら合理的な説明をしていない(これらの点は、検察官が論告で指摘しているとおりである)。

(三) 被告人の前記弁解は、前記信用性に疑いのない石崎及び大谷の各供述、さらには、前記小澤、鯉渕、牛木、朝倉の供述内容にそぐわないものであることは、それぞれの供述内容として摘記した点と対比すると明らかであるが、さらに、野中信敬(以下、「野中」という。)の公判供述と対比しても被告人の弁解は不合理である。すなわち、野中供述によれば、「平成三年一月二四日、ホテルステノに、私、被告人、大谷、安井弁護士が集まり、そこで、本件土地の買主が決まっていて、それは被告人らの間で当然に了解済みのように感じた。代金の話も出て、六億円という端数のない数字ではなく、もっとごちゃごちゃした数字だったと記憶している。また、代金の決定は国土法が前提になっているように感じた。移転登記や代金支払いも近々やるという話だった。登記については、私が安井弁護士に『鹿志村から被告人あるいは横須賀急送を中間省略にして買主に直接移すようにきちんとやってください。』と頼んだ記憶がある。」というのである。野中は、本件土地の名義上の所有者である鹿志村太一の訴訟代理人弁護士であり、その供述内容からみても野中供述の信用性には疑問の余地がない。そして、右供述によれば、被告人が弁解するように、本件土地の売買代金が六億円という端数のない数字ではなかったこと、その代金決定は、国土利用計画法の規定に従う旨の話になっていたことが窺われるのであり、この点で被告人の供述はこれと矛盾している。また、野中供述によれば、被告人が同席した場所での話し合いで、既に移転登記や代金支払いの件も話題にのぼっていたというのであり、被告人が本件土地売買代金を六億円という金額に固執していたのであれば、このような話に進むはずはなく、被告人において当然にこの点を問題にすると思われるのに、右野中供述からはこのような事情は全く窺われない。

(四) 被告人は、融資先の小澤から再三にわたって返済を求められ、平成三年二月四日(本件土地代金決済のなされた日)の数日前に、小澤に借金返済のめどについて説明した際、「一八七八坪×三〇万 五六三四〇万円」などと記載されたメモ(平成七年押第九〇号の42)を示しながら、土地が一八七八坪あって、坪三〇万円で売れるので、合計五億六三四〇万円になるとの説明をしていることが明らかである。右の点は、実際の本件土地代金額と一致するわけではないが、売買代金が六億円であったとの被告人の弁解とは明らかに矛盾するものであり、この点でも被告人の弁解は破綻しているというほかない。

(五) 被告人が石崎と直接交渉するに至った経緯にも不自然なものがある。すなわち、被告人は、大谷が被告人の承諾なしに勝手に始めた本件土地の売買仲介を途中で承諾したが、被告人が受け取るべき売買代金が六億円にならなかったので、大谷が「残りを猫ばばしたと思った」旨供述するのであるから、そうだとすれば、売買の相手方であるジャパン・プランニングハウスからその差額の支払いを求める余地はなく、被告人としては、大谷に強くこの点を追及し、「猫ばばしたと思った」部分の返還を求めるのが本来の道筋であるはずであり、それにもかかわらず、同人に対してはさして追及することなく、石崎と直接接触して、石崎と売買契約を結びなおして、裏金としてさらに支払いを約束させるという被告人の行動は不自然であり、また、石崎においても、本件土地取引が終了し、既に登記も得ている段階で、しかも、被告人の供述するところによれば被告人の説明を聞いてすぐに、裏金の支払いを応諾したということも考え難いことといわなければならない。

(六) 被告人と石崎との交渉状況についても不自然、不合理な点が多い。まず、被告人は、石崎との交渉について、勝田支社まで、被告人が関係する前記堀政連合の幹部であった牛木を同道し、同人を朝倉として紹介している。しかし、そもそも単なる本件土地売買の契約交渉であれば、暴力団員である人物を同席させる理由もなければ、その実益もないばかりか、被告人は、朝倉こと牛木が暴力団員であることをその席上で明かしているうえ、牛木が前記のとおり怒号するなどの言動に及んでいるのに、被告人においてこの点をとがめる等の行動には出ていない。また、仲介手数料一五〇〇万円に関する被告人の弁解をみると、同年三月八日の被告人と石崎との間の話し合いで、本件土地代金として大谷が仲介した際の金額どおりとすることで了解したというのであり、しかも、その際、仲介業者である朝倉は立ち会っておらず、仲介手数料の話も出ていなかったのであるから、このような状況の下で、同月二五日、本件土地の契約書を作り直す際、朝倉が同道し、そこでいきなり仲介手数料の話が出たということ自体不自然というほかない。しかも、朝倉自身、前記供述において、仲介手数料として右の金額を要求すること自体不合理なものであることを認めているのである。もっとも被告人は、公判廷では、前記のとおり、平成三年三月二五日に要求した仲介料は、石崎との間で本件土地上にある被告人所有の建物の解体費用の穴埋め分である旨供述を変遷させているが、被告人は同月八日の石崎との話し合いで、本件土地代金を確認した際、右建物代金や建物解体費用の点についても了解ができていたと供述しており、そうだとすると、同月二五日になってさらに被告人が解体費用名目で裏金の要求をしたというのは不可解というほかない。

以上のように検討してくると、被告人の前記供述は到底信用できるものではない。

五  以上のとおり、石崎及び大谷の各供述を始め、判示第一の証拠として掲記した関係各証拠を総合すれば、被告人は、大谷を介して、平成三年一月一〇日、ジャパン・プランニングハウスの石崎との間で、本件土地の売買契約を締結し、同年二月四日に右土地代金の残金が決済され、また、本件土地の移転登記も行われているのであるから、右の時点で、本件土地売買契約は履行されたものと認められる。そして、被告人は、その後、判示のとおり、裏金あるいは仲介手数料名目で暴力団の威勢を背景に金員を要求して本件犯行に及んだことは明らかである。

なお、弁護人らは、被告人は、本件土地の出入口を確保するため、パチンコ店の一部を取り壊したのであり、そもそも買主も特定していない時期から、将来の恐喝にそなえて建物の一部を取り壊し、その残存部分を手段として恐喝するなどということは通常考えられず、被告人には本件恐喝の動機が存在しない旨主張する。しかし、そもそも恐喝行為に動機の存在が必要でないことは明らかである。のみならず、関係各証拠によれば、平成二年五月一五日の和解が成立した際には、パチンコ店が明記されておらず、当事者の間では、パチンコ店を全部解体することで話がついていたもので、一級建築士である鯉渕も、平成二年一〇月ころ、現地を確認した際にはパチンコ店が残存していたことはわからなかった旨供述していることなどから、被告人が意図したものか、構造上の必要性があったためかは不明であるが、右和解と前後した時期に同店の一部だけが解体されたものと考えられる。そして、被告人は、同年九月ころ、右取り壊したパチンコ店の登記の変更を打越に依頼し、同年一一月九日付けで一部取毀の変更登記を行っており、全部解体するはずのパチンコ店の登記をわざわざ変更する理由について何ら合理的な説明をしていない。このことは、被告人が本件売買契約で定められた代金に満足せず、石崎に対して更に上乗せした金額を要求する腹づもりがあり、その過程でその要求を同人にいれさせるのに利用する意図があったとしか考えられず、同人が被告人からの裏金の要求に応じなかったことから、右の点を持ち出すなどして本件恐喝行為に及んだものと認められる。

第二判示第二の事実について

一  弁護人は、判示第二の事実につき、被告人には、所得税法二三八条の「偽りその他の行為」が存在しないし、仮に存するとしても、被告人には、所得税法違反の犯意がないなどと主張している。

1 まず、関係各証拠によれば、次の各事実が認められる。

(一) 被告人は、平成三年一月一〇日ころ、大谷を介して、本件土地をジャパン・プランニングハウスに五億四四六二万円で売却することにし、同日、ジャパン・プランニングハウスから手付金として額面五〇〇〇万円の小切手を受領した。

(二) 被告人は、各関係者との間で本件土地の境界確定をする際、ネットフェンスまでを境界とすると、登記簿上の面積より少なくなることを理由に浄化槽までの土地を取得することを主張し、本件土地とは別に、鹿志村から茨城県勝田市稲田字原野一一六九番一二の土地(以下「本件余剰地」という。)を横須賀急送名義で取得した。

(三) 被告人は、同年二月四日、本件土地の売買残代金として、ジャパン・プランニングハウスから四億九四六二万円を受領したが、うち二億九〇〇〇万円については、債権者であり、かつ、本件土地の仮登記権者である小澤に支払われ、残りの二億四六二万円については、同月一二日に被告人名義の茨城県信用組合上水戸支店の普通預金口座に振り込まれた。

(四) 右取引の際、被告人が本件土地の権利証を持参し、その他所有権移転登記手続に必要な書類は、大谷を介してジャパン・プランニングハウスに渡され、同日、本件土地の名義を鹿志村からジャパン・プランニングハウスに移転する中間省略登記がなされた。

(五) さらに、被告人は、同年一一月五日、大和田敏行の仲介により、本件余剰地を日立電鉄株式会社に七三六八万九〇〇〇円で売却して、これを受領し、同日、右土地について移転登記がなされた。

(六) 被告人は、平成三年三月初旬ころ、税理士事務所の職員堀口碩康(以下「堀口」という。)に同年度の被告人の確定申告をするための資料などを渡したが、本件土地及び本件余剰地の売買に関する資料は渡さなかった。そして、右税理士事務所では、右資料に基づき、本件土地及び本件余剰地の譲渡所得に関する部分を除外した確定申告書を作成し、被告人がこれに目を通して印鑑を押したうえ、同税理士事務所を介して同月一六日ころ右確定申告書が右税務署に提出された。そして、被告人は、本件土地及び余剰地に関する税務申告はしなかった。

以上によれば、被告人の本件土地及び本件余剰地の譲渡による所得は、平成三年度分の所得に該当し、被告人には、右各譲渡金額を同年度分の譲渡所得として確定申告する義務があることは明らかである。そして、被告人は、右の取引の主体として、その取引経過について十分に知悉していたというべきであるから、右各譲渡所得について同年度分として税務申告の対象になることを認識していたものと認められる。しかるに、被告人は、税務申告を依頼した税理士に対して、殊更本件土地及び本件余剰地の売買に関する資料を渡すことなく、右各売買による譲渡所得を除いた確定申告書を作成させて、これを所轄税務署に提出するに至ったことが明らかである。

弁護人らは、所得税法二三八条一項にいう「偽りその他不正の行為」といえるためには、被告人に所得隠匿の意思及び課税回避の意思又は行為の反社会性、反道徳性を必要とするのであり、本件のように単なる故意ある過少申告行為だけでは、これに該当しないことが明らかである旨主張している。

しかし、真実の所得を隠ぺいし、それが課税対象となることを回避するため、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書を税務署長に提出すること自体、単なる所得不申告の不作為にとどまるものではなく、「偽りその他不正の行為」に当たるというべきである(最高裁昭和四八年三月二〇日第三小法廷判決・刑集二七巻二号一三八頁)。そして、本件においては、前記のとおり、被告人が本件土地及び余剰地の売買により、所得があったことを知りながら、あえて、その関係の資料を税務申告を依頼している税理士に渡すことなく、殊更右の所得を除外した確定申告書を作成させ、その内容を自ら確認したうえ、税理士をして所轄税務署長に提出させているのであり、被告人のこのような行為が所得税法二三八条一項に該当することは明らかである。弁護人の前記主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、事前の所得隠匿工作等の事実を要求する趣旨であれば、これが失当であることは多言を要しないばかりか、被告人は、税務署からの平成三年度分の譲渡申告の問い合わせに対して、はがきで「係争中のため、解決次第申告します。」旨を記載して返信しているところ、右係争中の訴訟は、本件土地売買の効力に何ら影響を及ぼすものではないことが明らかであり、被告人もこの点を明確に認識していたものと推認されるのであるから、被告人がこのようなはがきを税務署に提出したこと自体、本件土地取引代金の申告を回避することに主眼があったと認められる。そして、被告人のこのような行為は、税の賦課徴収を困難ならしめる行為として評価することができるのであって、被告人の本件犯行の悪質性を示すものと認められる。

弁護人らは、また、本件土地売買について、ジャパン・プランニングハウスとの間で、右売買を巡って民事裁判が係属中であり、平成三年度の所得税の確定申告の時点においては、いまだ右売買による所得額が確定していなかったものであり、仮にそうではないとしても、被告人は、右申告時点において、いまだ本件土地取引に関する裁判が係属中であったことから、これが決着してから右売買による譲渡所得についての確定申告をすればよいと思っていたものであり、被告人には、所得税法ほ脱の犯意はなかった旨主張する。

そこで、まず、弁護人らが指摘するジャパン・プランニングハウスと被告人間の民事裁判について検討すると、関係証拠によれば、被告人は、平成四年二月二八日、横須賀急送と朝倉を代表取締役とする株式会社建成を原告とし、ジャパン・プランニングハウスを被告として、本件土地売買に関する仲介料、右土地上にある建物の解体費用、右土地上の倉庫の代金の各支払いを求めて、民事訴訟を提起し、ジャパン・プランニングハウスは、同年一〇月七日、被告人、横須賀急送、株式会社建成及び朝倉を被告として、本件土地上の建物及び自動車の収去と土地の明渡し、被告人の恐喝行為による喝取金の返還、マンション計画がとん挫したことに関する損害賠償などを求める民事訴訟を提起したことが明らかである。以上のとおり、被告人らを原告とする右の訴訟は、いずれも本件土地及び本件余剰地自体の販売契約の成否を争うものではなく、本件土地売買の有効を前提として、本件土地上の建物の解体手数料や本件土地に関する仲介手数料を請求する内容となっているものである。また、ジャパン・プランニングハウスを原告とする訴訟も、本件土地や本件余剰地の売買契約自体の成否を争うものではなく、これの存在を前提としたうえでの請求であることが明らかである。このように、本件各訴訟は、いずれも本件土地及び本件余剰地の得喪を争うものではなく、これらに関する売買契約の存在を前提とするものであるから、これらの民事訴訟が係属中であるゆえをもって、本件土地及び本件余剰地の売買を原因とする譲渡所得が生じていないなどとはいえない。したがって、これらの民事訴訟の係属をもって右各土地売買による譲渡所得が確定していないとの主張はその前提において失当である。また、被告人がこれらの訴訟の係属をもって、右譲渡所得に対する申告義務が生じていなかったと誤信したものとは到底考えられない。

もっとも、この点に関して、被告人は、捜査段階及び公判廷において「税理士である小野充雄(以下「小野」という。)に対して、税務署から譲渡所得の申告についての通知が来て、土地を売ったことだと思うが、裁判中で売買金額が確定しないから、確定したら払うと税務署に言ってくれと伝えた。堀口が平成三年三月四日ころ、水戸税務署に対し、同封されたはがきに『当該物件は、係争中のため解決次第申告します。』旨書いて、そのはがきを被告人に見せて確認をとり、税務署に送り返した。また、小野税理士からも金額が決まらなければいいんじゃないのということを言われた。大谷から振り込まれた二億円余りのうち、一億五〇〇〇万円は定期預金にしており、その理由は所得税を納付するためであった。」などと供述している。しかし、小野税理士の捜査段階及び公判廷における供述によれば、被告人の相談は、口頭のみの、抽象的なものであり、本件土地の売買経過及び移転登記の有無などについて何ら具体的な話はなかったというのであるから、被告人が小野税理士のアドバイスに従って申告の必要がないものと判断するなどということは考えられないことであり、小野税理士の助言を信じて申告を要しないと信じたというのは余りにも不合理であって信用することができない。かえって、小野税理士は、捜査段階において、「被告人が暴力団関係者であることは知っていたし、堀口を含めて、被告人の言うことに口を挟むと怒り出すので、被告人の言うとおりに処理していた。」旨供述しており、被告人が自ら主体的に税務申告の要否についての判断をし、具体的な指示を同税理士に行っていたものと推察される。また、被告人が大谷から振り込まれた金額のうち、定期預金に入れた一億五〇〇〇万円は、同日、右定期預金を担保に同額の手形借入を行っており、平成三年一一月には右定期預金が解約されているうえ、本件余剰地の売却については、訴訟にもなっていないにもかかわらず、全く税務申告をしていないことなどの事実に照らすと、納税のために定期預金にしていたとの被告人の弁解は不自然、不合理であって、到底信用することができない。

二  次に、弁護人らは、被告人は、大谷に対して、簿外経費五五〇〇万円を支払っている旨主張する。

この点につき、被告人は、検察官に対する供述調書及び公判廷において「私は、本件土地の境界確定の際、目減り分として二四五坪の余剰地を取得することになったが、この土地の分筆については大谷に骨を折ってもらったことから、後日、本件余剰地を日立電鉄株式会社に売却した際には、右売却代金を大谷と分けることになった。大谷が税金対策のため、だれか間に入れた方がいいと言うので、高橋達志を紹介した、私は、平成三年一一月五日、大和田敏行を仲介人として、本件余剰地を日立電鉄に売却し、右売却代金のうち五五〇〇万円については、大谷に対する利益分配金として高橋に支払った。その内訳は、高橋に対する名前を使用したことの謝礼五〇〇万円、大谷に対する本件土地上のパチンコ店取得の際に預かった一五〇〇万円の倍返しの三〇〇〇万円と余剰地を作ってくれたことの謝礼二〇〇〇万円の合計五〇〇〇万円だった。」旨供述している。

しかし、被告人の右供述は、その内容自体不自然で、また、供述内容に変遷もみられ、到底信用することができない。すなわち、被告人は、右三〇〇〇万円につき、本件土地上に建てられたパチンコ店取得の際、大谷から預かった一五〇〇万円の倍返しとして支払ったというのであるが、被告人がパチンコ店を取得したのは昭和六二年のことであり、その後、一五〇〇万円を大谷に返済しないまま、四年後になって突然に返済することになり、しかも、倍の三〇〇〇万円にして返済したというのも不自然であり、また、高橋名義の五五〇〇万円の領収書を作成したのは、大谷の税金対策というのであれば、高橋に対する報酬は大谷が負担するのが当然というべきであるのに、被告人がその謝礼として五〇〇万円もの金額を負担するというのは到底理解しがたいことである。しかも、被告人は、大蔵事務官に対する質問てん末書(乙17)においては、「五五〇〇万円は、高橋に対する貸付である。高橋は、貸付後二か月くらいで、暴力団に撃たれて死亡した。」旨前記弁解と異なる供述をしていたことが明らかであり、被告人がこのように供述を変遷させた理由についても何ら合理的な説明がなされていない。

一方、大谷は、捜査段階及び公判廷において、「本件土地の境界確定の際に、余剰地を被告人が取得したことは知らなかった。被告人が右余剰地を日立電鉄に売却したことも、その後に登録簿謄本を見せられて知った。高橋という男とは会ったこともなく、まして高橋らから五〇〇〇万円を受け取ったことはない。私は、日立電鉄に売却した件で金銭的なものを受け取ったことはない。」旨、被告人の弁解を明確に否定する供述をしているところであり、大谷の右供述の信用性には疑問の余地はない。

そうすると、被告人が大谷に簿外で五五〇〇万円を支払ったという事実は存在しないことが明らかであるから、弁護人らのこの点に関する主張も失当である。

(確定裁判)

被告人は、平成三年一一月二九日水戸地方裁判所で暴力行為等処罰に関する法律違反により懲役一年に処せられ、右裁判は平成四年四月二八日確定したものであって、この事実は検察事務官作成の前科調書によって認めることができる。

(法令の適用)

一  罰条

1  判示第一の所為

包括して平成七年法律第九一号による改正前の刑法(以下、単に刑法という。)二四九条一項、六〇条に該当する。

2  判示第二の所為

所得税法二三八条一項に該当する。

二  刑種の選択等

判示第二の罪について、所定の懲役刑と罰金刑を併科すると共に、情状により所得税法二三八条二項を適用する。

三  併合罪の処理

判示第一、第二の各罪と前記確定裁判のあった暴力行為等処罰に関する法律違反の罪とは刑法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない判示第一、第二の各罪について更に処断することとし、右各罪は同法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に法廷の加重をし、罰金刑については同法四八条一項によりこれを右懲役刑と併科する。

四  未決勾留日数の算入

刑法二一条を適用する。

五  労役場留置

右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

六  訴訟費用の負担

刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させる。

(量刑の事情)

本件は、被告人が牛木と共謀して、本件土地取引に関連して被害者である土地の買主を恐喝して金員を喝取し、また、本件土地を含む二か所の土地の売却による土地譲渡収入等に対する一億五六九七万円余の課税を免れたという事案である。

判示第一の犯行は、本件土地を所有していた被告人が、仲介人を介し、被害会社との間で本件土地の売買契約を締結し、被告人が被害会社からその売買代金を取得したにもかかわらず、その金額に満足せず、改めて本件土地についての売買契約書を作成させたうえ、裏金を要求し、被害者らがこれに応じないとみるや、本来の売買契約締結の際、既に同土地上に被告人所有のパチンコ店の一部が残存し、しかも被告人が同部分の変更登記を経ていたことを被害者らが気づかなかったことをよいことに、判示のような脅迫文言を弄するなどして金員を要求し、二度にわたって金員を脅し取ったという事案であって、被告人がこのような犯行に及んだ動機、経緯には全く同情の余地がない。犯行態様も、本件土地上にパチンコ店が存在することを楯に、暴力団幹部である牛木を伴うなどし、被害者のマンション建設事業等を妨害するような気勢を示して脅迫して執拗に高額な裏金を要求したものであって、計画的にして、執拗かつ陰湿なものであり、その手口は暴力団特有のものであり、犯行態様は極めて悪質というほかない。また、右犯行により、喝取された金額は合計二一七八万円と高額であり、被害会社に与えた金銭的損害が大きいことはもちろんであり、そのうえ、被告人は、本件犯行後被害会社によるマンション建設事業を妨害するなどの行為に及び、被害者は、被告人の仕返しを恐れて、ストレスによる病気の併発や離婚を余儀なくされるなど精神的な衝撃を受けたものであって、被害会社や被害者に及ぼした結果は重大といわなければならない。被害者は、被害会社の代表取締役という立場で本件土地取引の交渉を行い、本件土地の権利証を含めすべての資料を確認したうえで売買契約を締結し、移転登記を終えているのであって、被害者側に取り立てて落ち度があるとは考えられない。これに対して、被告人は、被害者に対する被害弁償等の措置を全く講じようとはしていないし、また、右一連の事実経過を含めて客観的な証拠関係に徴して不合理な弁解に終始し、訴訟中も証人等を威圧する行為に及ぶなど、右犯行についての反省の態度は全く認められない。

次に、判示第二の犯行は、被告人が本件土地を含む二か所の土地を売却したにもかかわらず、土地譲渡収入等に対する課税一億五六九七万九〇〇円をほ脱したというものであって、そのほ脱率は約九八パーセントと極めて高率であり、それ自体で厳しい非難を免れない。また、犯行態様をみても、被告人は、税理士に本件土地及び本件余剰地の売買に関する資料を殊更省いた帳簿資料を渡して税務申告を依頼し、税理士をして虚偽の確定申告書を作成させてこれを申告したばかりか、税務署からの土地売却の問い合わせに対して、右土地に関する訴訟でないことを熟知しながら「係争中のため、解決次第申告します。」旨記載して返信するなどしており、悪質というほかない。被告人は、本件土地を安価で取得し、その後も登記を移転しないまま売却し、本件余剰地も第三者名義で取得して売却するなど、いずれも自己の名義を表に出さないで取引を行っており、しかもこれらの取引について、税理士には全く報告せず、これらの土地取得が当初から売却目的であったことなどに徴すると、被告人の納税意思に欠ける態度が顕著に認められ、また、本件発覚後も修正申告等の方途を全く講じていないのであって、被告人は右犯行についての反省の態度にも欠ける。そして、本件のような脱税事犯は、誠実な納税者の納税意欲を喪失させるものであって、その意味でも被告人の行為は厳しく指弾されなければならない。以上に加え、被告人は、堀政連合の名誉顧問ないし相談役などという肩書を持って、暴力団組織と密接な関係を有しており、また、粗暴事犯を含む前科五犯(ただし、そのうち一犯は判示各罪との関係では余罪)を有しており、被告人の生活態度にも問題があるといわざるをえない。以上の事情を総合すると、被告人の刑責は重大といわなければならない。

そうすると、被告人は、長らく会社の代表取締役として従業員などを支えてきたこと、被告人の帰りを待つ家族がいること、被告人に対する身柄の拘束も相当期間に及んでいること等の被告人に有利に斟酌すべき事情も考慮しても、なお、主文の刑はやむを得ないところである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松尾昭一 裁判官 傳田喜久 裁判官 植村京子)

別紙1

所得金額総括表

自 平成3年1月1日

至 平成3年12月31日

白戸與五郎

〈省略〉

修正損益計算書

自 平成3年1月1日

至 平成3年12月31日

白戸與五郎

〈省略〉

別紙2

ほ脱税額計算書

白戸與五郎

〈省略〉

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